令和8 年度の税制改正大綱が、2025 年12 月19 日に公表されました。
今回の改正では、企業には「賃上げ」や「設備投資」などの前向きな取り組みを促進し、個人には「就労」や「資産形成」を後押しするとともに、過度な節税や抜け道を抑制するという方向性が示されています。
1.法人税改正
法人税分野では、賃上げや設備投資に関する税制優遇が見直され、特に大企業を中心に制度を縮小する一方、中小企業については一定の配慮を残す形で整理されます。これまで幅広く適用されてきた特例を見直し、賃上げの実施状況が明確な企業や、生産性向上・省力化につながる設備投資を行う分野に税制上の支援を重点化することが狙いとなっています。
(1)賃上げ税制の見直し 【増税】
従業員の賃金を増加させた場合に税額控除を受けられる「賃上げ税制」については、企業規模に応じた見直しが行われます。
大企業向けの制度は廃止され、中堅企業向けの制度も段階的に縮小された後、廃止される予定です。一方で、中小企業向けの制度は当面継続されますが、教育訓練費に係る税額控除の上乗せ措置は廃止される方針となっています。
(2)少額減価償却資産の特例の見直し 【減税】
(適用時期:令和8 年4月1 日以後取得資産)
少額の資産を取得した場合に、購入時に全額を損金算入できる「少額減価償却資産の特例」は引き続き利用できることとされ、対象となる資産の取得価額要件が、従来の30 万円未満から40 万円未満へ引き上げられます。
これにより、従来であれば数年に分けて減価償却していた比較的高額な備品や機械についても、取得年度に一括して経費処理できる範囲が広がり、中小企業を中心に、設備投資に伴う税負担の軽減が図られることになります。
2.消費税改正
消費税分野では、インボイス制度を定着させることを前提に、免税事業者と取引のある事業者や個人事業者への影響を段階的に調整する内容となっています。制度移行に伴う急激な税負担や事務負担を緩和するため、特例や経過措置が設けられています。
(1)3 割特例の創設(個人事業者)【減税】
(適用時期:令和9 年分・令和10 年分=2 年間)
インボイス制度導入後の負担を和らげるため、売上規模の小さい個人事業者を対象に「3 割特例」が設けられます。具体的には、基準期間の課税売上高が1,000 万円以下などの要件を満たす小規模な事業者は、本来計算した消費税額ではなく、売上に係る消費税額の3 割を納付額とすることができます。
これにより、消費税の計算が簡素化され、納税額が低く抑えられるので、インボイス対応に伴う事務負担と資金負担の双方が軽減される仕組みとなっています。
(2)免税事業者からの課税仕入に係る経過措置の見直し【実質減税】
免税事業者からの仕入れに係る「仕入税額控除」については、当初予定されていた制度設計が見直され、経過措置が延長されるなど、事業者への影響を緩和する対応が取られています。
その一方で、「控除できる割合」は段階的に縮小され、仕入税額相当額のうち、令和8 年10 月以降は70%、令和10 年10 月以降は50%、令和12 年10 月以降は30%までに制限され、最終的には控除が認められなくなります。
このため、免税事業者との取引を続けている事業者では、経過措置が残っている間に、将来の消費税負担増を踏まえて、原価や取引価格をどのように調整していくかを検討しておくことが重要になります。
3.所得税改正
所得税分野では、物価上昇の影響を受けやすい給与所得者を中心に税負担を軽減するとともに、住宅取得に加え、預貯金だけに頼らず、株式や投資信託などを通じた資産形成を支援する内容となっています。家計の負担を下支えしつつ、将来に向けた計画的な資産づくりを促すことが意識されています。
(1)基礎控除・給与所得控除の引き上げ【減税】
(適用時期:令和8 年分以後)
所得税の基礎控除は、最高58 万円から62 万円へ引き上げられます。また、給与所得控除の最低額についても、65 万円から69 万円へ引き上げられます。これにより、給与所得者を中心に、年間の所得税負担が一定程度軽減されることになります。
さらに、令和8 年・令和9 年の時限措置として、基礎控除の特例が最大42 万円上乗せされるほか、給与所得控除の最低額についても5 万円の特例が新設されます。
これにより、給与収入が178 万円以下の場合には、所得税が課税されなくなります。
いわゆる年収の壁の引き上げです。
(2)住宅ローン控除の見直し【減税】【一部増税】
住宅ローン控除については、「省エネ性能の高い住宅」や「既存住宅の活用」を重視する方向で制度が見直されます。具体的には、省エネ基準を満たす中古住宅については、「借入限度額」が引き上げられる一方、新築住宅については、住宅の性能区分や立地条件によって「借入限度額」が引き下げられます。
また、災害リスクの高い区域に建てられた新築住宅については、控除の対象外となるケースも設けられています。
住宅の「種類」や「条件」によって控除額に差が生じる点が、今回の見直しの特徴です。
(3)NISA 制度の見直し【減税】
(適用時期:令和9 年1 月1 日以後)
NISA については、投資可能年齢の下限が撤廃され、0 歳から17 歳を対象とした新たなつみたて投資枠が設けられます。この枠では、年間投資上限額は60 万円、非課税で保有できる上限額は600 万円とされており、若年層からの長期的な資産形成を後押しする内容となっています。
(4)暗号資産の課税見直し【減税】
(適用時期:金融商品取引法改正後)
一定の暗号資産の譲渡益については、税率20.315%の申告分離課税が導入されます。
現行の総合課税では最大で約55%の税率が適用される場合があるため、税負担は大きく軽減されることになります。
4.相続税改正
相続税分野では、不動産を活用した特定の節税手法が見直され、資産規模の大きい層を中心に課税の公平性を高めることが主な目的とされています。
(1)不動産小口化商品の評価方法の見直し【増税】
(適用時期:令和9 年1 月1 日以後)
不動産小口化商品については、相続や贈与の際の評価方法が見直されます。今後は、取得時期にかかわらず、相続または贈与の時点における通常の取引価額、いわゆる時価を基準として評価されることになります。これにより、従来見られた評価方法の違いを利用し
た大幅な税負担軽減が抑制される見込みです。
今回の税制改正は、税負担の軽減策と引き締め策を同時に行うことによって、企業や個人の行動に一定の方向性を促す内容となっています。実際の影響は、企業規模や取引形態、個人の所得・資産状況によって異なりますので、適用については、個別の状況を踏まえた検討が必要となります。
関連ファイル:令和8 年度 税制改正大綱のポイント